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2020.07.28

<映画:WILD / わたしに会うまでの1600キロ    #山映画  #ジャン=マルク・ヴァレ監督  #ロングトレイル #PCT(パシフィック・クレスト・トレイル) #一人山旅>

タイトルが入ります

 

 こんばんは。火曜日担当、登山部リーダーのツノムラです。

 蒸し暑い日々が続きますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。

 

 元々は東京五輪期間の休日を増やす目的で、今年の『海の日(7月第3月曜)』、『山の日(8月11日)』は、いつもより後ろ倒し、前倒しのイレギュラーな祝日暦です。

 本来なら、世界のアスリートに熱狂してパブリック・ビューイングでビールをグビグビ飲みたかった。しかし、こんな事になって、虚しくて、祭の後のような空白の祝日です。本当にスポーツ・クライミングの野口啓代選手のスパイダーマン・ジャンプを観たかった!!

 

 

 しかし、それはそれとして、本日は、ステイ・ホームで大自然を満喫できる山映画をご案内します。

 2014年公開のジャン=マルク・ヴァレ監督、リース・ウィザースプーン主演の映画『WILD(ワイルド) /わたしに会うまでの1600キロ』

 

 少しだけ、イントロ部分のあらすじ紹介をご容赦ください(ネタバレはできる限り避けます)。

 

 

 舞台は、1995年のアメリカ西海岸シアトル。主人公の26歳女性、シェリル・ストレイドは、自分を取り戻すために総距離1,600Kmのロングトレイルを歩き始める。

 

 長い山旅に出る前の彼女の生活は、自暴自棄で、満たされない自分の空洞を埋めるために、薬物、ワンナイト・ラブなどラフな快楽に手を出す。

 夫を裏切り、堕ちていく居心地の悪さに自己嫌悪して、さらにエスカレートして不義を重ねる。優しい夫は、妻を治癒できると信じて、何とか彼女を平穏な世界へ連れ戻そうと努力する。しかし、彼女は逃げる。

 夫からの愛を鼻で笑い、別の悪い男に身を委ねる。自分から迷い道に突入する。それがワイルドだと勘違いしているよう見える。

 

 そして、映画冒頭から、イライラする。

   “ なんて面倒くさい「こじらせ乙女」なんだ ”

   “その「埋められない空洞」って何なんだ ”

   “誰だって脛に傷はある。でも忘れたふりをしているんだぜ”

 

 行き場を失った彼女は、突然に自分探しの旅に出る。たった一人で80リットルのバックパックを担いで、アメリカで最も完歩が難しいパシフィック・クレスト・トレイル(P.C.T:西海岸のシェラネバタ山脈からニューメキシコの砂漠と荒野に至る国立自然歩道)の1,000マイルを歩き始める。

 ロングトレイルの未経験にもかかわらず。

 

 

 観ているこちらは段々とイライラが深まる。

 これは、ワイルドではない。ただの無謀だ!

 

  • 半袖・短パンで山をなめるなよ!

(転んだら怪我するぞ。高山の紫外線は半端ないぞ)

 

  • 荷物を減らせ!

(なんだ、その無駄に重い荷物。電動空気入れは便利だが必要ない)

 

  • 登山靴のサイズが小さすぎる!

(靴づれで爪を剥がすぞ。靴紐を締め過ぎるなよ)

 

  • 山で出会う親切な山男には気を付けろ!

(奴らの下心みえみえだぜ。奴らの○✖️□△を蹴り上げてやれ)

 

 

 そもそも、P.C.Tは、砂漠と3,000m級の豪雪山脈が連続するプロアドベンチャー仕様のスーパー・ハードなトレイルなのを分かってんのかい⁈

 イッテQの山岳スタッフを総動員しても無理筋な案件だぜ!

 老婆心から「今すぐに引き返しなさい!」とツッコミを何度か入れたくなる。

 

 

 

 

 しかし、物語が進むにつれて、不思議に僕は彼女を応援している。

 彼女は、案外に謙虚でタフだから友達に思えてしまう。

 

 彼女は、一人で長く歩く。それは、とても個人的な事で誰からの制約も受けない自由を手にいれる。反面、無力で恥ずかしいことだらけの自分が嫌になり、疲れて寂しくなると、訳がわからなくなって山中で叫んでいる。

 自分自身に腹立たしくなって、怒る。誰もいないのに誰かに助けを求めるようにしてもがく。

 

 《 僕も彼女と同じだ 》

 

 そうだ、深さの違いはあれど、心の空洞は誰にだってある。

 僕は、歩くことでそれを埋めてきたことに気がついた。

 

 山から下りて、僕は普段の生活でも迷い道に陥らないように心がけて生きてきた。しかし、気づかずに道迷いして、気づかずに正しい道に戻ってきたかもしれない。いや、まだ迷い道の最中にいるのかもしれない。

 

 山好きとかそうでないとか関係なく、本当に必要不可欠な沼にはまり込む清々しい作品です。荒野の道のりを彼女が完歩できたがどうかは、是非本作をご覧になってください。

 

 本作は、主人公の時系列の心象風景を細かく切り取って、時間と場所をランダムに再編成して、モザイク状につなぐ監督の編集手腕が秀逸です。

 一人称の彼女の視点から物語を回想する構成ですが、時折、フラッシュバックで、シェリルの最愛の母である二人称の視点から彼女を暖かく包み込む。母親役のローラ・ダーンの演技なしにはこの映画は成立しなかったと思う。

 

 

 

 

 

 そして、この映画は実話に基づいている事にも驚いた。原作の『WILD』は、今尚アメリカのベストセラーで、平易な文章でとても読みやすい。

 

 とにかく、映像美に感嘆する。映像を志す若い人には是非ご覧になってほしいです。

 自然風景を切り取る構図、広い画角と焦点の捉え方、シンプルとスピード感のバランス良い編集、音楽とフラッシュバックするカット割など学びたい映像技術が沢山ある。

 

 映画のお供の音楽は、ルー・リードの「Walk on the Wild Side」だと思う。

 

    “She says. Hey babe, take a walk on the wild side”

          “Do, do-do, do-do, do-do-do”

 

 

 お酒は、ベタに「ワイルド・ターキー8年」のロックだと思う。 

 二日酔いに気をつけて、たっぷりのお水をチェイサーに忘れずに。

 

 おやすみなさい。