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2020.08.04

<映画:トラック野郎 / 望郷一番星    #ロードムービー  #鈴木則文監督  #アンチ・男はつらいよ  #菅原文太と愛川欽也 #不良性感度>

タイトルが入ります

 

こんばんは。火曜日担当のツノムラです。

 

さて、長かった梅雨がようやく明けて、そろそろ帰省シーズンが始まりますね。

 

夏本番はこれからなのに、早くも夏の名残が寂しくしくなり、なんだか「もう秋かい?」みたいな気分です。でも、まだ蝉がジャンジャン鳴いて、積乱雲はやる気満々で、夏祭りはスルーされて、今年は季節感が掴めない毎日ですね。

 

僕は、大阪の下町に生まれ育って、今も在阪生活ですので、帰省先がある方々はとても羨ましい。妄想フル回転すれば、こんな帰郷が理想。

 

“ 砂浜でスイカ割りして、思いっきり日焼けして、旧友と朝まで呑んで、実家で昼まで寝る。深酒で目を腫らして、両親に「じゃあな! 元気でなっ!」って素っ気なく、さよならの挨拶して。後ろ髪引かれても、振り返らずに、エイヤとエンジンかけて、都会へ車を走らせる。“

 

一方で、室生犀星の詩歌

 

「ふるさとは遠きにありて思ふもの、悲しくうたふもの…」 

のような、故郷を離れ、都会で一人生きる覚悟についても、共感できます。

 

 

本日は、そんなお盆前の郷愁をカラッとさせる映画「トラック野郎 望郷一番星(シリーズ第三作)」をご案内します。

 

 

主人公の「一番星」こと星桃次郎(菅原文太)は、幼くして故郷を奪われた天涯孤独の天才トラックドライバー。喧嘩っ早いが、仲間からの人望は厚い。どんなに厳しい輸送条件でも、失敗しないで、時間通りに積荷を届ける。

 

一番星の相棒である「やもめのジョナサン」こと松下金造(愛川欽也)も同じく、長距離ドライバーで、愛妻家で子煩悩なムードメーカー。桃次郎とは付かず離れずの関係で、いざ事件が起きると彼をサポートする。ホームズとワトソンみたいな関係。

 

ここまで書けば、「海猿」みたいな胸熱のバディー・ムービーと思いきや全く違います。

 

何せ、脚本・監督は東映の「不良性感度シリーズ」で無節操なエロ・グロを撮り続けてきた鈴木則文先生です。

 

 男の拳、女の裸、酒と乱痴気、警察のサイレン、レバニラ炒めと排泄物、猥褻と喧騒が銀幕を飛び交う。義理と我慢で膨れた男のマグマを一気にぶっ放す。男たちは、劇場を出て噴火のエクスタシーの余韻に浸る。それが、鈴木監督の本流だと思います。

 

さて、仕切り直して、ネタバレを極力避けながら、本作のあらすじをご案内します。

 

 舞台は、1970年代の川崎。やもめのジョナサン(愛川欽也:キンキン)の一家は、五男四女の11人家族で八畳一間のアパートに暮らす。さすがに狭い。母ちゃんこと春川ますみに郊外の戸建をせがまれる。

 

 そんな折に、仕事依頼の電話が鳴る。一儲けできそうな航海の話(航海:長距離トラック輸送の業界用語らしい)。

 東京―釧路間の長距離輸送はタフだが、ジョナサンは昼夜働き、マイフォーム貯金に邁進する。

 

 

 しかし、北海道の縄張りを走るには筋を通さなければならない顔役がいる。“カムチャッカ”こと大熊田太郎次郎左衛門(梅宮辰夫)に頭を下げなければならない。しかし、ブレない男こと、我らの一番星(菅原文太)はカムチャッカに喧嘩を売る。

 

 

 この二人の男のタイマン勝負は、ワンカット長回しで壮絶なんだけど、これって「仁義なき戦い」に対するアンサーなのだろうか。呉の抗争で義兄弟の若杉(辰夫)を助けることができなかった広能(文太)に対する憎悪を釧路でやり返すみたいな。

 

 そして、文太とキンキンに長距離輸送のデカイ仕事が舞い込む。たったの6時間で釧路から札幌まで鮮魚40トンを届けなければならない。スピード違反、積載オーバーでパトカーを吹っ切り、高速道路も整備されていない荒れた山道を行く。タイヤはバースト寸前。

 

 

次第に文太と辰夫とキンキンの距離が近づく(うん、B .L?)。

 

ミッション・インポッシブルのこの任務は成功するのか? 

続きは、本作を是非ご覧ください(後悔させません)。

 

本シリーズは、1975年から79年まで10作品が東映で封切られ、夏休みと新春の年二回の上映、つまり松竹の「男はつらいよ」のカウンターパートとして、正統派喜劇に対して不良的感度の高い喜劇として、魁!!男塾的な昭和の漢たちを魅了してきた。

 

 

 今の価値観では、法令遵守と男女平等、職業偏見などの観点から映画化はおそらく無理な脚本だと思う。まず、“う○こ”の実写はNGだし、一番星がジョナサンの母ちゃんに押し付けられて、彼女の子供9人を連れて特殊浴場に行くのはキツイ(安心するのは、そういうシーンはなく、普通に公衆浴場的に入浴しています)。

 

 今の感覚では、ネットフリックスの「全裸監督」に近いと思う。猥褻だからって、下品ではない。理不尽には屈せずに、仲間を信じて、損得なしで、法の域を超える。どこかズレてる登場人物たちがぶつかるオフビートな青春映画(おっさんしか登場しないですが)。

 

 下品でない理由は、文太とキンキンの演技力にあり、また、ただのドタバタ芝居に見えない骨太な構成力がある鈴木則分監督の脚本の上手さだと思う。

 愛川欽也は俳優座、菅原文太は劇団四季で演劇を修行している。レスリングのグレコローマンのオリンピック候補生が、その後に新日本プロレスでヒール役をするみたいな。基礎演技ができているから、エンタメにも深みが増す。

 

 

 ちなみに、本作の「やもめのジョナサン」は元警察官で多くのトラック野郎を取り締まってきたが、それを隠しているという設定。そして、警察の捜査手法を知り尽くしていることから、それを逆手に警察に罠を仕掛けて仲間を助ける。

 

 そして、「マッド・マックス」のMaxも元警察官の設定。

もしかしてだけど、それってジョージ・ミラー監督は「トラック野郎」を意識してんじゃないの? 同じ、ロード・ムービーだし。

 

  映画の中で、一番星こと桃次郎は、いつもサッポロビールの赤星、大ビンを美味そうに飲んでいる。ビールのあてはレバニラ炒め。

 

  梅雨が明けて、暑いのなんのって。真ん中の程々の夏はないのかい?

  今夜は脂っこい中華をキンキンに冷えた赤星で流し込みたい。

 

おやすみなさい。