2020.08.18
<映画:メルー #ジミー・チン監督 #ヒマラヤ登頂記録映画 #究極のドキュメンタリー #Mentor(恩師)>
こんばんは。
火曜日担当、登山部リーダーのツノムラです。
先週の山の日が過ぎて、北アルプスの夏山計画は白紙になって、日々をダラダラして中年太りおじさんの夏を過ごしています。
そこで、唐突ですが、本日は「山の映画」の噺です。
仲間と山を歩いたり、避難小屋なんかで夜話をしていると、山岳映画のオールタイム・ベスト「僕らの最高の山映画はどれ?」で盛り上がることがある。
「クリフハンガー(スタローン)」どない?
→ “ド派手やね。エンタメ強いね。でも好き”
「八甲田山(高倉健)」はどう?
→ “トラウマが強いね。凍死がリアル。クーラー要らずやわ”
「エヴェレスト 神々の山嶺(阿部寛)」は?
→“二人の眼力が強すぎへんか? 原作が台無しやわ”
『メルー(ジミー・チン)』はどない?
→“間違いないでしょ!! 映像がやばい!! 全部が本物やわ!!
(ってドキュメンタリーですから本物です。C.G無し。)
山の仲間うちでは、全会一致で「メルー」が暫定1位の山岳映画です。
ですから、本日は2015年公開のドキュメンタリー山岳映画『MERU/メルー(ジミー・チン監督、上映87分←丁度良い長さ)』をご案内します。
本作は、3人の登山家が難攻不落のヒマラヤ山脈のメルー峰の登頂に挑むドキュメンタリー映画です。
苦難を乗り越えてエヴェレストを登頂して、抱き合って感動みたいなドラマティックなエンタメ映画ではない。
映画の前半は、主人公たちの日常生活を切りとった地味なシーンで始まる。
3人の家族のメンバーが話者として、登山家の「よこ顔」を語り始める。
意外に普通のおじさん達だ。
しかし、いざ山に入るとおじさんたちの顔つきが変わる。
クライミングで生死を分けるシビアな「決断」をビシバシさばき、「速攻」で緻密な作戦を立てて、最悪の事態を常に頭に置いて、進退を含めた「行動」を取る。
世界最高のクライマーとビジネスのシーンとを比べられないけれど、仕事場では、僕たちおじさん達も「決断」と「行動」に迫られ、時折に失敗しつつも前に進んできた自負がある(失敗しても、命は奪われませんでしたけど)。
だから、こんなジャンルの映画に惹かれます。
さて、ネタバレせずに映画のイントロだけご案内します。
2008年にアメリカ在住のトップクライマーの3人がヒマラヤ山脈の標高6,600mのメルー峰に挑む。
師匠:コンラッド・アンカー(当時:46歳)とその弟子:ジミー・チン(当:時:35歳)、とそのまた弟子:レナン・オズターク(当時:28歳)の3人の結束は師弟関係を超えて、友情のさらにそのうえの情感で強くつながっている。
山の神々を信じる聖職者のように、彼らはあらゆる試練を受け入れる。
死ぬ時は同じ。しかし、絶対に誰も死なせない。
僕は、三人の一心同体に心が奪われて、深い呼吸をしながら物語にはまり込む。
僕のことはどうでも良い。話を元に戻します。
3人は世界のアルピニストが誰も登頂できなかった「シャークス・フィン(高さ460mの垂直のビッグウォール、標高6100mにある花崗岩の刃)」のルート踏破に悪戦苦闘する。
氷雪に覆われた絶壁は、夜はマイナス30度、日が昇るとマイナス10度前後。
悪天候を窺いながら一日に70mの登攀を目指す。
絶対的な条件不利の自然環境下で、次の手の位置と足先の置き場を「決断」する。
岩肌のクラックを指先で探り、慎重にハーケンを打つ。
ゆっくりしていると指先を凍傷で失いかねない。
結晶粒子が大きい花崗岩の表面は風化しやすく、3点確保が恐ろしい。
岩肌を覆う氷雪は、日が登るとシャーベットになりかねない。
ロックとアイスの岩壁が交互に出現する。
超難関なミックス・クライミングである。
日の出前、岩肌の氷雪がまだ固い時分に、クランボンとアックスを振り上げて懸垂し、スクリューでロープの支点を作る。
僅かな崖の窪みを足場に垂直にテントを吊るし、仮眠休憩する。
食事はグラノーラとチーズでなんとかつなぐ。
日が昇ると岩肌に飛び移り、また登り始める。
予定では、この過酷な登攀を13日以上続けなければ登頂できない。
人工登攀に掛かる重い装備(テント・食料、ロープ・登攀器具は90kgを超える)を担ぎ上げながらのアイス・クライミングは不可能に近い。
3手先のルートを読んで、将棋の駒を進めるよう慎重に自分の躯体を引き揚げる。
指し手を一つ間違えれば、ロープで繋がれた3人は滑落し、帰らぬ登山家となる。
本作の驚くべきことは、撮影クルーを別建てで参加していない。
この3人の冒険家の自撮り映画である。
考えられない偉業であるが、メルー峰の登攀記録を完全なるセルフ・ドキュメンタリーとして映画化している。映像編集の鬼である。
世界初の自撮り山岳映画。当然、ドローンも使わずに。
しかし、ジミー・チンならば不可能を可能にする。
ジミー・チンは、左手にロープを握り、右手でCanon5D Mark IIを構えて、先頭で誘導するリーダー、コンラッド・アンカーの機敏な体の動きをダイナミックなアングルで撮影する。
まるで、ターザンみたいにロープに掴まり、空中に振られても、フルサイズカメラを片手にコンラッドと山容を一瞬で捉える。
とてもとても広くて深い、吸い込まれる被写界深度の山の姿。
その映像の美しさは、神の領域にある。
まるで「水の上を歩く」ように、不可能な絵姿である。
普段は神を信じない僕でさえ、宇宙の中心に身を置いた錯覚に陥る。
ここから先は、映画の内容をお話することはできません。
是非、ご自身でその中身を確かめてください。
こんな閉塞感に潰されそうな時代だからこそ、前に進む3人の登山家の姿をより多くの皆様に見ていただければ幸せの限りです。
アマゾン・プライムに加入している方は是非にご覧ください。
そうでない方は、レンタルショップかiTunes Storeでレンタル視聴が可能です。
最後に、登場人物の補足説明です。
コンラッド・アンカーは、1999年のエヴェレスト遠征時に英国人登山家「ジョージ・マロリー」の捜索チームに参加し、その遺体を発見したことで知られている。
しかし、ジョージ・マロリーの遺体や遺留品からは、1924年に彼がエヴェレスト最高峰登頂に人類史上に初めて成功したかどうかの証拠は未だに見つかっていない。
依然として、世界最高峰の初登頂者の記録は、1953年のエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイである。
また、彼は登山家の間で「Last Man Standing(最後の男)」と呼ばれている。
1987年から57歳の現在に至るまで30年以上も世界最難関の登攀に参加し、幾度もの滑落や雪崩に遭いながら生き続けている不死身と幸運の山男である。
彼は長く登山家アレックス・ローと二人で登攀チームを組んで南極大陸最高峰登頂などの偉業を達成してきた。
しかし、1999年のネパール・チベット遠征では、長年の相棒であるアレックスが雪崩で命を失い、コンラッドだけが生き延びた。
その後、彼は、アレックスの配偶者:ジェニファー・ローと結婚し、アレックスの三人の子供たちと共にモンタナ州で暮らしている。
妻のジェニファーからの「大きな山には行かないで」との願いに対して
「生きて帰ること」を約束にメルー峰の登頂に挑む。
そして、雪崩事故から10年後の新たな相棒がジミー・チンである。
ジミー・チンは、ナショナル・ジオグラフィック所属のプロ写真家であり、ノースフェイス社がサポートするロッククライマー、プロ・スキーヤーでもある。
本作では、撮影、監督、出演(登攀)をこなし、すべてが一流である。
2019年アカデミー賞では、監督として「フリーソロ」で長編ドキュメンタリー賞を受賞している。オスカー監督である。
アジア系アメリカ人の彼は、どこかジャッキー・チェンや木村拓哉さんに似ており、とても親近感が湧きます。
次は、どんな映画を撮るのかが待ち遠しい監督です。
興味がある方は、彼のインスタグラムを是非チェック!!
寝苦しい熱帯夜ですが。
水分補給を忘れずに。
ビールのガブ飲みは、利尿作用で夜中に起きそうです。
今夜は、よく冷やした強めの炭酸水で喉を潤して。
おやすみなさい。