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2020.09.15

<映画:バッファロー66>  #オフビート青春映画 #ストックホルム症候群 #ヴィンセント・ギャロ #クリスティーナ・リッチ  #髭とボイン>

タイトルが入ります

 

 こんばんは。

 No Cinema, No Life.

 火曜日担当のツノムラです。

 

 Off-Beat(オフビート)のアメリカ映画、とりわけ、90年代のインディペンデント映画を良く見返しています。

 

 オフビート映画とは、登場人物の行動が普通よりズレていて、シナリオの起承転結も釣られて跳ねる。寝落ちする一歩手前のアドリブ音楽的な映画ジャンルです。

 

 ビートに乗り切れないストーリーの流れになかで、何拍かずれてインパクトが強いシーンが急に飛び込んでくる映画。

 「なんの話ですのコレ!?」と突拍子の無い展開に突っ込みながら、ジワジワと不思議に心地良くなる映画。

 

 『ナイト・オン・ザ・プラネット(1991年)』、『シンプルメン(1992年)』、『トゥルー・ロマンス(1993年)』、『恋する惑星(1994年)』、90年代は名作オフビートの宝庫でした。

 

 90年代の映画環境は、メジャースタジオに頼らないインディーズ映画配給システムを、MIRAMAXが80年代に作り上げたおかげで、多くの新進気鋭の作品に巡り会うことができた。

 

 また、9.11同時多発テロ以前の世界でしたので、政治的な社会問題を意識することはあまりなかった。どちらかと言えば、お気楽さに包まれた時代でした。

 

 “ボーイ・ミーツ・ガール”から始まって、誰かに恋をして、勝手に勘違いをして、追いかけっこをする。最後まで誰も死なない映画。

 

 内向きの幸福を深掘りする当時の雰囲気が最近、特に気になります。

 

 

 本日は、90年代オフビート映画の最高峰で、当時のファッション・アイコンであるヴィンセント・ギャロが監督・脚本・音楽・主演の『バッファロー‘66(1999年公開)』をご案内します。

 

 とにかく、主人公のビリー・ブラウン(ヴィンセント・ギャロ)の洋服は、目眩がするほどカッコ良い。

 

 

 ラグランスリーブのライダース・ジャケット、3ポケットのスラックス、サイドジップのブーツ、すべてが長身細身のビリーにジャストフィットのサイズで作られている。ギャロ以外には、絶対に着こなせないスタイル(日本だと野口強さんしか着こなせない)。

 

 そんなビリーが、映画の冒頭から挙動不審気味に街を走る。

 

 

 それも内股で、カマキリの様に手の甲を真正面に小さく振り上げて、モジモジしながら走る。

 

 トイレを探しているようだ。

 行く先々で、丁寧な言葉遣いで「洗面所をお借りしたいのですが?」と尋ねるが、ことごとく断られる。どこか、怪しい雰囲気がする。

 

 鳶色の青い瞳、無造作な髭と黒髪のオールバック、鷲鼻と痩けた頬、あのクールなギャロが額に脂汗している。

 膀胱が耐えきれない、ダメだ、尿漏れの寸前だ。

 

 どうやら今回のギャロはダサイらしい。

 

 ミュージシャンで画家・写真家、モデル・俳優、「SWITCH」、「CUT」、「GQ Japan」の表紙を独占していたギャロ。マルチな才能、どんなにダサくても、面倒臭くても、彼の魅力は、20年を過ぎた今も色褪せない。

 

 映画予告編のBGMは、Yesの「Heart of the Sunrise」。ハイテンションのプログレをバックに映画のカット割りを切り貼りでつないだコマ送り映像。さらに60年代っぽい、ざらついたフィルムのアナログの質感にシビれた。

 

 公開当時、心斎橋ビックステップの劇場は平日も満員だった。

 

 キャッチコピーは「最悪の俺に、とびっきりの天使がやって来た」。

 

 そんな天使みたいな恋人「レイラ」を演じるのがクリスティーナ・リッチ。

 

 子役出身で小柄でコケティッシュ(日本で言えば安達祐実? ギャロは北村一輝だと思う)

 

 

 彼女は金髪に髪を染め、ラメ入りのブルーアイシャドウ、淡い色のキャミソールに薄手のカーディガンを野暮ったく羽織る。

 

 全身がファスト・ファッション。

 小柄でぽっちゃりでグラマラス。

 ついつい、キャミソールの左右の膨らみに目がいってしまう。

 

 ついでに、彼女の車は汚れている。

 車内はファストフードの包み紙だとか、色々と転がっている。

 

 失礼な言い方ですが、彼女にはどこかに隙がある。

 見ていて、悪い男にひどい目に遭わされないか心配になる。

 

 

 さて、続けて映画のイントロ部分だけ紹介させてください(ネタバレは極力に避けます)。

 

 ビリーは漏れそうな尿意に耐え、ようやく忍び込んだダンス教室のトイレで放尿し、苦しみから解放され、正気に戻る。

 

 その帰りすがらに、ダンスレッスンを受けていたレイラを誘拐する。

 彼女を後ろ手で羽交い締めにして、「言うことを聞け」と脅す。

 

 

 ビリーは今朝、刑務所から出所したばかりだ。

 無一文で崖っ淵だ。

 ビリーは、正気ではない。

 

 だから言わんこっちゃ無い。

 「レイラはん、あんさんの隙には気をつけなはれや」と僕は言いましたでしょと、一人突っ込みが増す。

 

 ビリーはレイラを脅して、彼女の車を奪って、ニューヨーク州バッファローの彼の実家に向かう。

 

 マニュアルトランスミッションの厳ついアメ車。ビリーはオートマチック車しか運転できないと小さな声で文句を言う。さらに、車内が汚いと罵る。

 面倒臭い男だ。

 

 仕方がなく、囚われのレイラが自分で運転する。

 

 何で? 正気か? 何故に逃げない?

 二人ともズレている。

 

 

 ビリーが車を止めろと指示する。

 緊張してトイレが近いのか、路上で立ち小便を始める。

 

 「今だ、レイラ逃げるんだ!」

 「奴は銃を持っていない。それにただの頓馬だ」

 

 

 彼女は逃げない。

 彼女は、ハニカミながらビリーに微笑み返す。

 この状態で一目惚れ?

 これはストックホルム症候群?

 

 「ビリーは、重罪で5年服役していた。何かを企んでいるぞ。」

 「これからヤバイ展開になるぞ」

 レイラの事が心配になる。

 

 ここから先は、本作を是非にご覧ください。

 

 数年前までアマゾン・プライムで配信していたのですが、残念ながら今はレンタルDVDでしかご視聴になれません。

 同世代の皆様には、是非是非に見直して欲しいです。

 

  作品の中で気になるシーンをご紹介させてください。

 

 <その1:ボーリング場でのクリスティーナのタップダンス>

 

 ボーリング場で幻想的にぶっ飛ぶ映像は、以前にご案内した「ビッグ・リボウスキー」のデュードが有名です。

 しかし、照明が落ちたレーンで踊る彼女のタップは、同じくらいにぶっ飛んでいて、とてつもなくエロくて可愛い。

 

 BGMは、キング・クリムゾンのプログレッシブ・ロック「Moon Child」でテンションがローギアに入って強い酒を飲みたくなる。

 

 ワンシーンがYouTubeにもアップされているようです。

 

 

 <その2:刑期を終えて誰も迎えにこない寂しい出所>

 

 服役出所から始まる映画に名作は多いと思います。

 

 「幸福の黄色いハンカチ(傷害罪の服役)」の高倉健

 「ブルース・ブラザーズ(強盗罪の服役)」のジョン・ベルーシ

 「オーシャンズ11(詐欺罪の服役)」のジョージ・クルーニー

 

 みんな出所を待ってくれる友人や家族がいて、主人公が再起して、失われた時間を取り戻す。不器用な男たちのそれぞれの再生ストーリーに僕たちは感情移入する。

 

 本作のビリー・ブラウンは、何を取り戻したのか? 気になるところです。

 

 

 

 <その3:モテない男のぎこちないキス>

 

 映画のキスシーンって照れ臭い。

 しかし、この映画の二人のぎこちないキスシーンは、絵画的でシャガールとかアンリ・ルソーとか幻想的な印象画のようで家に飾りたくなる。

 ポスターやイラストにもなっていて、今見ても新しくもあり、懐かしい。

 

 篠山紀信さんが撮ったジョンとヨーコのキスシーン(オノ・ヨーコさんの「Kiss Kiss kiss」のアルバム・ジャケット)と「マイ・ブルーベリー・ナイツ(ウォン・カーウァイ監督、ノラ・ジョーンズ主演)と並んで世界三大キスシーンだと思います。

 

 

 

 

 先週の「恋はデジャ・ブ」のビル・マーレーに続いて、またまた主人公の好物はドーナッツ。チョコレート・ドーナッツ、ハート型のストロベリー・ドーナッツどれも美味しそう。

 

 今晩は、釣られてチョコレート・ドーナッツが食べたくなる。

 

 最後に、「最悪の俺に、とびっきりの天使がやってきた」の映画キャッチコピーは、本当にその通りでした。

 クリスティーナ・リッチは、女神でした。

 

 関係がないけど、小島功先生のビックコミックオリジナルで連載していたコミック「ヒゲとボイン」を読み返したくなりました。

 

 

 今宵は変な夢を見そうな気がしますが、おやすみなさい。