2020.11.03
<映画:007は二度死ぬ> #ルイス・ギルバート監督 #イアン・フレミング原作 #轟太郎ことショーン・コネリー #逆輸入の「とんでも日本」
こんばんは。
No Cinema, No Life.
火曜日担当のツノムラです。
訃報です。
スコットランドの名優、サー・トーマス・ショーン・コネリーさんが逝去されました。
1930年、エディンバラ生まれ。初代ジェームスボンド、アンタッチャブル、史上最大の作戦、インディ・ジョーンズ。渋い役どころは、忘れられない。
ウィスキーをこよなく愛す、生粋のスコットランド人。
お悔やみ申し上げます。
1992年放映のサントリー/クレスト12年のテレビコマーシャルが印象的で、その飲み方が上等の大人らしく、憧れました。
バーカウンターに腰かけ、琥珀のクレストをトゥー・フィンガーよりやや多め。オン・ザ・ロックに並々とボトルを注ぎ、グラス縁から深くゆっくりと運ぶ、頬の奥でアフターテイストを確かめながらピクリと右眉を上げる。
CMのキャッチコピーは、『時は流れない。それは積み重なる。』
渋い、美味い、飲みたい。
たった30秒のメッセージで、時間とウィスキーの関係が一目瞭然で、こちらも喉の奥が鳴る。
スコットランド人がその琥珀色の味わいを「命の水」と呼んだ意味が良くわかる。
本日は、ショーン・コネリーさんを偲んで、日本を舞台にした彼の作品『007は二度死ぬ(You Only Live Twice)』をご案内します。
原作は冒険小説家のイアン・フレミング、脚本は児童文学の大家(チャーリーとチョコレート工場など)のロアルド・ダール、監督はルイス・ギルバートのゴールデン製作陣。
1967年公開の「007シリーズ」第5作目は、オルドファンからも評価が高い。
ボンド役は、ショーン・コネリーとダニエル・クレイグの人気が二分していると思います。
コネリー相手役のボンドガールは浜美枝さんで、オリエンタル・ビューティーは世界を虜にした。僕ら世代は、ハウス・クリームシチューのコマーシャルでお母さん役の印象が強いですが、本当に美しい女性です。
1964年オリンピック直後の東京が舞台で、丹下健三の代々木第一体育館やホテルニューオオタニなど高度成長期の東京の街並みを背景に、真っ白のボンドカー『トヨタ 2000GT』が疾走する。
ヘリコプターを巻き込んでのカーチェイスは、文句なしにスタイリッシュ。
始まりは、シリーズのいつも通り、ドンパチがあって、螺旋状の銃口筒の内部を背景に艶めかしく女性の影絵が踊り、ボンドがワルサーPPKを両手に構えて放つ、いわゆる、ガン・バレル・オープニング。
今回は、舞台が日本なのか、芸者姿の白人がアパホテルのCMみたいに、ゆらゆらとヘンテコダンスで踊るサイケデリック。
1994年結成の日本人ラップユニット『ゲイシャ・ガールズ(ダウンタウン)』みたいな古いステレオタイプ日本の描写で、逆輸入的な『とんでも日本』の違和感がダサいのか、新しいのか微妙です。
60年代の洋画ですから、欧米目線の勘違いだらけの日本文化が満載ですが、それもご愛嬌です。一周回って、今の時代では『とんでも日本』的な描写もツッコミどころ満載です。
僕が気になるダサ・カッコ良いシーンをご案内します。
お付き合いください。
<ダサい忍者コスチューム>
日本の諜報機関の特殊部隊が、英国諜報部員(MI6)のボンドの活動をバックアップする。
その戦闘服が、刀を背中に指した忍者コスチュームなのが笑えます。
衣装が「ねずみ男」みたいでダサ、かっこ悪い。
日本政府情報機関のボスである「タイガー田中」こと、丹波哲郎の指示で、忍者特殊部隊は空手と刀を振り回す。
武器が刀でアナログだけどチームが団結して動きが素早く、アメリカンフットボールのオフェンスみたいな、独特の忍者フォーメーションが萌えます。
アメコミの「ミュータント・タートルズ」はこの映画イメージを拝借したのではないかと思います。
<度が過ぎるおもてなし>
本作では、英国諜報機関のミッションで来日(実際は潜水艦で密入国)した「007」こと、ジェームズ・ボンドの身柄を日本の公安警察が引き取る。
日本サイドの諜報活動として、秘密警察エースの丹波哲郎がボンドに近づく。
美女のエスコートにより、ボンドは、両国国技館の大きな特別席で大相撲を観戦する。外国人への「接待あるある」。そして、日本酒の熱燗で乾杯。
ここまでは、2017年の安倍元総理からトランプ大統領への接待コースと同じ。
しかし、その後の接待は、度が過ぎる。
政府の地下秘密基地から秘密の地下鉄に乗って怪しげな迎賓館へ彼を誘う。
二人は浴衣に着替えて温泉に向かう。
浴場では、水着姿の女性が待つ。
服を脱いで彼女たちに背中を流してもらうことをボンドに勧める。
「風呂場での社交は、洗練された日本文化だよ」と入浴を促す。
バカ殿の志村けんさんみたいに、ボンドは鼻の下を伸ばして、4人の美女に体を洗われる。まんざらでもない。
「すべて彼女たちにまかせなさい」、「彼女たちは君の胸毛に釘付けだよ」
丹波哲郎はコネリーに裸で近づきながら、甘い目線でボンドの胸毛を見つめる(おっさんずラブ?)。
ハニートラップに違いないけれど、このおもてなしは、絶対にアカンやつです。
フェミニズム的にもアウトだと思う。
2013年ブエノスアイレスでの五輪誘致プレゼン、あの滝川クリステルの「お・も・て・な・し」よりも、見ていて小っ恥ずかしい。
「おもてなし」とは、本質が難しく、見た目はむず痒いものですね。
<バレバレの潜入捜査>
英国諜報機関「MI6」は、悪の組織「スペクター」の秘密基地が九州沖の島にある火山火口の地下深くにあることを突き留める。
本国の司令官:Qからの命令で、ボンドは日本人漁師になりすまし、島に潜入する。
まずは、姫路城で忍者と武術の訓練を受ける。
そして、東京のエステティック・サロンで日本人顔のプチ整形を受ける。
さらに怪しまれないように、島の海女と偽装結婚し、「轟太郎」の偽名を使い、日本人として、漁師町の生活に溶け込む。
いわゆる白土三平先生の劇画『忍者武芸帳』でいう“草”として、庶民になりすまして諜報する忍者。
どうかしている。無理がある。
190cmの彫りが深い白人の大男があえて着物姿、言い難いアンバランス。
日本人に見えるはずがない。
明治時代であれば赤鬼と恐れられただろう。
67年当時、東京五輪後で高度成長していたものの、忍者とか遊郭とか日本文化のステレオタイプは、変に勘違いされていたと思います。
映画のあらすじは、いつもの「007シリーズ」と同じです。
悪の地下組織「スペクター」が、アメリカとソ連の宇宙船を秘密裏に拿捕し、米ソの対立を煽る。
戦争回避を図るために、英国諜報部「MI6」のエージェント“007”が命がけの潜入捜査を始める。
スパイ用のハイテク機器とスーパーカーをボンドが使いこなす。
アベコベに、美女に使いこなされ、危うく死にそうになる。
不死身のボンドのミッションは成功するのか?
ここから先は、是非に本作をご覧ください。
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親日家で女性に優しいジェントルマン、ショーン・コネリー。
中年男は頭髪が寂しくなっても、口髭で何事もカバーできると教えてくれた名優。
晩年は、英国と距離を置き、スコットランド人としてのプライドを持ち続けた独立精神。
本当に素敵な映画をありがとうございました。
心よりご冥福をお祈りいたします。
それでは、また来週まで。
おやすみなさい。