2020.09.08
<映画:恋はデジャ・ブ> #ハロルド・ライミス監督 #無限ループ #ニーチェの永劫回帰 #ビル・マレー #アンディ・マクダウェルの黒髪ソバージュ>
こんばんは。
火曜日担当のツノムラです。
唐突ですが、“二日酔いの朝”は自己嫌悪に陥りますよね。
頭痛と胃のもたれで、「また、やってしもたー」と前夜の痛飲を後悔する。
もしも、願いが叶うならば前日に戻りたい。
「飲み過ぎに注意しなよ。その辺で、やめとけ」と自分に教えてあげたくなります。
お酒の失敗のみならず、「連れ合いとの些細な喧嘩」、「不注意で自家用車のドアをこすった」など、「覆水盆に返らず」的な失敗に対して、時間を遡って、その原因を取り除きたい妄想があります。
本日は、そんな妄想とバカ願望に関する映画をご案内します。
言うならば、「覆水が盆に返っちゃいます」的な時間の巻き戻し映画です。
今風の流行り映画では、パラレルワールド(例:インターステラー)とか無限ループ(例:アバウト・タイム、ハッピー・デス・デイ)の元祖本家の映画です。
1993年公開、ハロルド・ライミス脚本・監督の「恋はデジャ・ブ」です。
デジャ・ブ(deja-vu)は、『既視感』の意味で、超常現象により主人公が1990年2月2日の一日の生活が永遠に反復して、その日から抜け出せない「無限ループ」の世界での既視感にうんざりする物語。
聞くだけで恐ろしい「SFホラー」だと思いきや、実はコメディー映画です。
それも、ラブコメ映画です。しかし、本質は哲学的な作品です。
主役はゴーストバスターズでお馴染みのコメディアン、ビル・マーレイ(日本で言うと大地康雄みたいな喜劇ができる笑顔が怖い名俳優)。
ヒロインは、“ロレアル・パリ”の化粧品CMで有名な元祖、黒髪ソバージュ美女のアンディ・マクダウェルです。
90年代の赤い口紅と黒髪ソバージュ・ブームは、今井美樹ではなく、彼女のテレビCMが巻き起こしたと僕は思います。
元パリコレ・モデルの絶世の美女ですが、演技力がダメだとの評価で(実は演技が上手い)、もっぱらラブコメの女王でした(「グリンカード(1990年)」、「フォー・ウェディング(1994年)」など)。
さて、本題です。
とにかく、同じシーンが無限ループで繰り返される「実験的な映画」で、観客によっては初めの20分で飽きるかも知れません。
しかし、僕は嫌いではないです。
ヒップホップみたいにワンフレーズの短いライムを永遠と繰り返すみたいな。
古くはジェームス・ブラウンの「ゲロッパ!」みたいな。
しかし、バイブスが合えば無限ループも良いですよね。
「それはさっき聞いたぞ!」、「ずっと同じじゃねえか!」なんて文句を言わないですよね。
さて、物語のイントロ部分の紹介をご容赦ください(ネタバレは極力に避けます)。
舞台は、真冬のペンシルバニア州の田舎町「パンクスタウニー」。
毎年2月2日の聖燭祭(せいしょくさい:キリスト教の「立春」の祝い)の頃に、冬眠したモグラ(実際はモグラみたいなネズミ)を叩き起こして、春の訪れをモグラの口から直接に訊く、伝統的な気象占いのイベント「グラウンドホック・デイ」が町の広場で行われる。
いわゆる、みうらじゅん氏が提唱する「とんまつり(頓馬な祭り)」のアメリカ版です。
主人公のフィル・コナーズ(ビル・マレー)は、地元テレビ局で有名な気象予報士で、情報番組のTVプロデューサーのリタ・ハンソン(アンディ・マクダウェル)と共にテレビ取材のために、イベント前日にパンクスタウニー町に前入りする。
非科学的な気象占いイベントに対して、気象予報士のフィルは、皮肉たっぷりにテレビカメラの前で「グラウンドホック・デイ」の様子を生中継する。
町の人々が楽しんでいる「とんまつり」に対して大人気ないコメント、地元ファンに対しても素っ気ない塩対応。この男はいけ好かない。
テレビ中継が終わり、即座に田舎町から都会の自宅へ帰ろうとするが、天候急変と猛吹雪で翌日までパンクスタウニーに足止めされる事になる。
その晩は、前日と同じ宿、町の由緒あるB&Bホテル(Bed & Breakfast)にもう一泊する事になる。
翌日の朝六時ちょうどに目覚ましがわりのラジオが鳴り始める。
吹雪は止んで静かな朝だ。
しかし、なんだかおかしい。
昨日と同じ会話をラジオDJが始める。
ホテルの朝食で周りが昨日と同じ会話をしている。
町ですれ違う男たちが、昨日と同じ場所、同じ時間、同じ洋服で同じくだらない話で声をかけてくる。
「昨日と同じじゃないか!?」
「ひょっとして、あの馬鹿げたモグラの占いも昨日と同じようにやっているのではないか?」
「今日はいったい、何月何日なんだ!」
「2月3日のはずだ!」
だんだんと不安になってくる。
ここから先は、是非に本作をご覧ください。
本作監督のハロルド・ライミスは、ゴーストバスターズ1および2でも脚本を担当し、ストリー構築の上手さが秀でています。
映画評論家の町山智浩さんの解説(ポッドキャスト)では、本作の脚本は、哲学者:フリードリヒ・ニーチェの書籍「ツァラトゥストラ」で語られる『永劫回帰(Eternal recurrence)』の思想に影響を受けていると仰られています。
ニーチェは、「人生の出来事は、前に進むでもなく、後ろに下がるでもなく、円のようにぐるぐる回るものだ」
“苦痛も幸福も同じように繰り返される。仮に苦労が99%を占めていても、1%の幸福があれば、再び1%の幸福が訪れる。
人は、それを糧に生きることができるのではないか” と書いている。
なんだか、宗教勧誘のような「キメ文句」で引いてしまいますが、興味深いです。
主演のビル・マーレは、現在69歳の渋い俳優です。
アメリカのバラエティー番組殿堂「サタデー・ナイト・ライブ」出身のコメディアンからキャリアがスタートしている。
ソフィア・コッポラ監督、2003年公開の東京が舞台の秀作「ロスト・イン・トランスレーション」で英国アカデミー主演俳優の他、様々な俳優賞を受けています。
最後に本作で僕が大好きなシーンを紹介させてください。
彼が完全に萎えて、絶望的になって、不健康なピンク色をした砂糖たっぷりのドーナツを食べ続ける場面です。
コーヒーポットから直接に口でラッパ飲みするシーンも好き。
ストレスでドーナツをヤケ食いする気持ち、わからないでもない。
手と口の周りが油と砂糖でギトギトになる。
お尻のズボン布地で拭いてやろうかと思いますが、あとが怖いのでウェットテッシュで拭きます。
今夜の帰りに「ミスター・ドーナツ」でポンデリング、オールドファッション、フレンチクルーラーの3つを買って、素手で掴んで、砂糖まみれの指先をベロベロしてやろうかと思います。
それでは、ワイルドな夜をおやすみなさい。